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正中口蓋縫合の可動性

絶えず変動する縫合の緩み

下の写真は30台後半の女性の患者さんがご自身で撮られたものですが、

夜就寝前と朝起床時の中切歯間の間隙を比べて見てください。

 夜の写真では左右の中切歯間に1mm弱の隙間が見えますが、朝になると間隙が縮小しているのが判ります。 

数ヶ月に亘る写真に同様の状況が続いています。
歯には動揺はありません。 

私が指で押しても写真ほど間隙は変化いたしませんでした。
もし頭蓋容積が縮小して縫合が締まって起こる現象ならば脳血流障害が懸念されます。
お話でも夜中に頭痛や鼻づまりで苦しい思いをよくされるということでしたのでその可能性は充分あり得ます。
普段より出歩くことの極めて少ない方でしたので、何よりも日常の歩行を増やしてもらい、頭蓋の容積変化を障害しない設計のピローを使ってもらうようにしました。
その後、次の写真のように間隙の変化が速やかに縮小してきました。
間隙が縮小状態で安定したのではなく、拡大状態で安定したことに私は安堵しました。
空隙については放置しても構いませんし、見た目が気になるようでしたらレジンなどを接着して修復すれば容易に改善できるので問題ではありません。
日常診療において患者さんの状態や治療経過を一人につき数十枚から数百枚単位で撮影記録している私ですが、このような短い時系列での写真を撮る事はあり得なかったので、本当に驚きました。
もし仮にこの患者さんが上顎の左右中切歯を連結するような治療を受けたならどの様な事になるでしょうか。
歯科治療では連結固定は極めて一般的に行われていますので、決してあり得ない話ではありません。


 皆さんも歯間清掃用のデンタルフロスが時によってきつくなったり緩くなったりすることを経験されていませんか?
くまがい歯科ではこんな検証実験をしました。(母数100名)

上顎前歯の正中に(この2本の歯の間に正中口蓋縫合があります。)110ミクロン厚のコンタクトゲージを挟み、足底圧の強弱の変化で正中口蓋縫合の締り緩みが体感できるかの実験です。

結果として、無圧状態ではきつく感じ(大抵は痛いという感想でした) 、加圧状態では緩くなり痛みも治まるというのがほぼすべての人の感想で予想と合致しました。

正中口蓋縫合の可動性を制限する可能性のある歯科治療

Allon4_edited.jpg
 正中を跨いでブリッジ等で連結固定する場合、天然歯同士であれば、歯根と歯槽骨間には1/5mm程の歯根膜腔により、僅かな動きが許容されますが、インプラントの場合は骨と隙間なく結合しているため完全に固定されてしまいます。
​ 近年、"All on 4"(イメージ図) 或いは "All on 6" という手法が散見しますが、これを上顎骨に適応させた場合、上顎骨の可動性や柔軟性が制限される事で何らかの問題が生じないか懸念されます。

こんなに広がる正中口蓋縫合

赤ちゃんの頭がペコペコ柔らかいのは、頭の骨の結合部が未完成で完全に合わさっていないからです。

結合部である縫合の完成はおおよそ12才です。

縫合部には軟組織が介在していて100才になっても癒着する事無く可動性を保ちます。

下の写真はそれぞれ8才の男の子です。

上顎骨の成長不良により、スペース不足で叢生となっていました。
取り外し式の拡大装置(Bio Bloc Stage1)で1日に0.1~0.2mmほど正中口蓋縫合を拡大しました。

上の写真の子は2か月と少し、下の写真の子は特に重度な成長不良でしたので3サイクルの拡大を行いました。
それにより上顎骨全体の大きさが増すことにより自然と歯列が正常となりました。

副次効果として鼻詰まりや滲出性中耳炎が解消しました。
上顎は歯を支えているだけでなく、鼻腔を形成し眼球も支えていますので、直接的に他の器官にも影響があります。

現に2017年から米UCLA大学の附属病院では、無呼吸症候群と眼科治療を目的として、MSEという装置を用いた上顎骨の拡大治療が行われるようになりました。
これらの事を理解すると、正中口蓋縫合を固定してしまう歯科治療はもう出来ませんね。 

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