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接着について

修復物(詰め物・被せ物)がすぐに取れてしまう。
修復物の境目から虫歯が進行した。
これらは主に接着不良が原因です。

接着.gif

修復歯の予後は詰め物・被せ物の材料の良し悪しよりも実は接着が重要ポイントなのです。

 歯の白くて硬いというイメージがあると思いますが、白くて固いエナメル質は歯の表層の一部に過ぎず、その本体は象牙質です。
エナメル質の組成はハイドロキシアパタイト97%に、水分が3%程度ですが、象牙質はほぼ水分であるコラーゲンが30%とハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウム)が70%という構成です。

 身体の骨はカルシウムで出来ていますが、実はその本体はにかわやゼラチンとして利用されてるプルプルのコラーゲンだってご存知でしたか?
例えるならコラーゲンが鉄筋で、カルシウムがコンクリートとして破断し難く頑丈となる鉄筋コンクリートみたいな構造です。
カルシウムは溶けだしたり、取り込まれたりして変化するので本体はコラーゲンというわけですね。
実は象牙質の本体も、骨と同じくコラーゲンなのです。
コラーゲンの失われたリン酸カルシウムは不安定な存在のため接着の永続性がありません。

上の写真はエナメル質と象牙質の切片の顕微鏡写真です。

エナメル質は整列した結晶化構造をしており、含水量は3~5%です。

この結晶化配列は通常経年的に、日々の生理的な食生活による脱灰と再石灰化によりより緻密になり強化されていきます。

歯の構造の大半を占める象牙質は見てのとおり、象牙細管と言う細い管で構成されています。 細管は1mm²に5万~15万もあります。この象牙質本体(管間象牙質)の含水量は約30%です。

矯正のブレースであれば歯の表面のエナメル質に接着させるので、エナメル質を酸処理して表層を荒らすことにより物理的に強固に接着させることができます。
しかし、修復の場合はその接着の対象は主に象牙質の部分となります。
象牙質は組成上、湿っていて柔らかいというイメージが合っています。
矯正のブレースをエナメル質の剥離した象牙質に、同じ処理で着けても容易に剥離してしまいます。

接着と合着の違い

歯科で使用する接着剤は大まかに分けると合着セメントと接着性セメントがあります。

合着セメントについて

 歯科で歴史的に最も使用されている接着剤です。
合着セメントは接着性がほとんど無く、ただ硬化するだけです。
修復物を合着する場合は、機械的維持を持って嵌まり込むように詰め物・かぶせ物を合着して取れないようにします。例えるなら茶筒の蓋に錆が噛みこんで外れなくなるようなイメージですね。
接着性が無い物理的嵌合ですから、外れないようにするためには形成の段階で茶筒のように深く平行な形態にすることが不可欠なため、う蝕でない健康な部分までそのために削る事になります。
 さらに、ミクロレベルでは合着セメントは歯とは結合していないため、接合部からう蝕になり易いのが宿命です。

 機械的維持のために、悪くない健康な部分も削らなければならないというのも不利ですし、術後に内部でセメントの溶解やう蝕の進行が起こっても機械的に嵌まり込んで脱落しない場合、より深刻なう蝕の進行が起きてしまうので要注意です。
 

接着性セメントについて

 接着性セメントは単に修復物をくっつけるというより、象牙質に人工エナメル質として象牙質を酸や細菌から保護する樹脂層を浸透させ、それに修復物をくっつけるという概念です。

歯を守る事の出来る素晴らしい材料なのですが、操作手順が極めて複雑でより精緻な技術力が必要とされます。
些細なエラーで接着の成果が0にまで落ちてしまい、合着セメント以下にまでなり得ますので、単に接着性セメントを使ったというだけでは安心できません。

ただ接着性レジンセメントを使っただけでは

象牙質に接着しない理由は?

① 形成により象牙質の表層にミクロレベルの削りかす(スメア層)が象牙質一面に喰い込んでいるから。

② レジンはモノマーとポリマーの重合により硬化しますが、モノマーは疎水性なので象牙質中の水分と相性が悪いから。
③ 接着性レジンセメントは僅かな油分・唾液・血液・ユージノール等の接着阻害因子が介在すると
重合不良となったり象牙質本体に接着できないから。

これらを解決するためにくまがい歯科で行っている事

① スメア層の除去


これはエナメル質の酸処理に使用するリン酸で除去する事が可能ですが、リン酸は接着の主体である象牙質中のコラーゲンを破壊してしまいます。
そこでEDTAを使用してコラーゲンにダメージを与える事無く、キレート結合によりスメア層のみを除去します。

上の写真左は象牙細管が切削屑等で閉鎖された象牙質表面像です。 
このままだと接着材は象牙質に浸透出来ません。
削りくずがこびり付いたままの木材をボンドで接着をするイメージですね。
​右の写真はEDTAのキレート結合により象牙質と内部のコラーゲンにダメージを全く与える事無く、スメア層(削り屑)を除去した表面像です。
手順の煩雑化や時間の節約のため、一般的に普及している製品ではこの手順を簡略したり、スメア層だけではなくコラーゲンや象牙質本体まで破壊してしまう酸処理が一般的となっています。
② 象牙質のプライミング


様々なプライマーがありますが、くまがい歯科では為害作用が無くプライミング効果の高いGMを使用しています。
GMをスメア層除去後の象牙質に浸透させることで、疎水性の接着性セメントが象牙質に浸透して水を含んだコラーゲンを包み込むようにして重合します。 
この浸透した層を樹脂含浸層と呼びます。 この層により耐久性のある強固な接着となるのです。
4METAとTBBによる化学重合型接着性セメントであるスーパーボンド使用の際には、10%のクエン酸と3%の塩化第二鉄の処理液がEDTA+GMの代わりとして使用する場合があります。
これによっても、樹脂含侵層が獲得できます。

③ 完璧な防湿環境

口の中では舌が動いたり、唾液や血液が歯を汚染します。
くまがい歯科では可能な限りラバーダムというゴムのシートをクランプやラバーの紐を使い処置する歯だけを口腔内と隔離して、呼気中の水分や唾液・血液の流入による汚染を防御します。
クラウンのセット時のようにクランプをかけることが出来ない場合は、防湿フィルムやワッテ、バキュームを駆使して必死に防湿に努めます。

④機器と設備のオイルフリー化

コンプレッサーから供給される空気の完全浄化システム完備。
形成用のハンドピースは注油の必要としない特殊ベアリングを使用。
これらにより油分による汚染を防ぎます。

⑤ ドクターサイドとアシストサイドのチームプレーによる正確な手技と手順。

より高度な接着技術では歯と人工物をくっつける以前に、接着樹脂が歯質に浸透して酸や細菌の侵入を防ぐ人工エナメル質として残存歯質を保護することをめざします。
そのためには接着する前段階として歯牙や人工物を適切な状態に処理する必要があります。
接着のための作業には、作用や操作の時間・手順・温度管理等を厳密にする必要があります。

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