アタッチメントシステム
オーソドックスな一般的な部分床義歯(部分入れ歯)は、残っている歯に針金のようなクラスプという装置で保持させます。
クラスプ式の義歯は残存歯の加工が最低限(義歯床の沈下防止のためレスト座という1mm程のくぼみを咬合面に削り込む必要がありますが)で、製作法がシンプルという利点がありますが、次のような欠点により患者さんからの評価はあまり高くありません。
・見た目が悪い(一目で入れ歯とわかります。)
・クラスプに食べかすが挟まりやすい
・咀嚼のたびに歯とクラスプが擦れ合う事で歯にダメージが生じ易い
・残根歯には応用できない。
これらを解決しようとするのがアタッチメントという装置です。
アタッチメントの種類
アタッチメントは残存歯に取り付けるメール(オス)部と、義歯部分に取り付けるフィメール(メス)部が着脱可能に連結固定出来るように作られた部品です。
連結部は義歯の内側に仕組まれ、義歯を装着した状態ではアタッチメントは露出しないので審美性的に優れています。
アタッチメントは大きく分けて連結部を弾性材で緩圧するタイプと、緩み無く結合する非緩圧性(リジッド)タイプに分類されます。
リジッドタイプは義歯の動きが抑制される事でより安定して咀嚼できますが、義歯を支える歯への負担は大きくなります。
それは、歯は咬んでも沈み込みませんが、義歯は歯肉が圧縮されて咬む度に沈み込むからです。
それを考慮されたものが、連結部に弾性材を挟んだ緩圧タイプのアタッチメントです。
義歯にアタッチメントを用いる時の注意点
有床義歯の最大の欠点は、粘膜部の沈下です。
部分床義歯では、床義歯と残存歯では咬合時の沈下量が大きく異なります。
歯と骨の間には0.2mmほどの歯根膜腔があるのでその範囲内での沈下は生じ得ますが、目で見て判るほどではありません。
一方、歯槽骨上の粘膜厚さは1.5~3mm程と部位によって異なりますが、研究によると義歯の沈下量は0.8~1.2mm(歯科学報、92(3):521-548)と大きいです。
このことより、天然歯と床義歯の混在する場面での咬合の難しさと、義歯を保持する歯のストレスが理解して頂けるかると思います。
緩圧性アタッチメント
当院で使用しているアメリカ製のエラアタッチメントとカナダ製のロケーターアタッチメントです。
両製品ともに弾性材の硬さを選択できます。
弾性材の耐久寿命は数か月と短いですが、交換は簡単です。
非緩圧性(リジッド)アタッチメント
テレスコープクラウン
リジッドアタッチメントも多数種類がありますが、ドイツ発祥のテレスコープクラウン(コーヌスクローネ)が世界的にも多く使用されています。
但し、これは既成の装置ではなく技工作業にてここに作製していくもので、高度な技術を要します。
テレスコープクラウンとは歯に直接接着させる内冠とそれに被せる取外し式の外冠で構成されます。
2重冠とも言われ、精密に適合した冠が茶筒の蓋が合わさるように接合して維持をします。
これらは多数歯の連結クラウンや、ブリッジ、部分義歯をクラスプの代わりに保持するアタッチメント義歯等様々な症例に活用可能です。
多数歯に応用した場合、その中の歯を抜歯することになっても抜歯後即座に使用でき、その後は比較的簡単にブリッジやアタッチメント義歯に改造が出来るため、予後不安な歯同士を連結して修復するケースには将来の不安が少ない治療法と言えます。
ソフトアタッチメントテレスコープクラウン
原法のテレスコープクラウンは内冠金属と外冠金属の嵌合によって維持されるため、きつくて外れにくかったり、経年摩耗により緩くなって外れ易くなったりするのが欠点でした。
そこで、内冠に対角に2か所、1mmほどの球状の凹みを付与し、外冠内部にはその凹みに嵌まり込むような弾性材(セグメントポリウレタン)を埋め込むことで、内冠と外冠との接合は嵌合では無く、弾性材により結合させることで、テレスコープクラウンのきつい・緩いという欠点を克服したのが日本発のソフトアタッチメント テレスコープクラウンです。
また、金属同士の嵌合に由来しないので、内冠・外冠共に素材を選びません。
セラミックやジルコニア等も使用可能である事も従来に無い特徴です。
弾性材(セグメントポリウレタン)は経年劣化して2~4年ほどで維持が弱くなりますが
その際は最短4日間のお預かりで、ソフトアタッチメントの取り換え(再ショット)が容易にできます。
作製時にスペアの外冠を作成しておくと再ショットや修理で義歯をお預かりすることになっても、普段の生活に支障をきたしませんのでお勧めです。
ブリッジの寿命 = 一番弱い歯の寿命
接着固定された連結クラウンやブリッジは、その内1歯でもトラブルが生じると全ての構成が破たんする場合があります。
この症例では治療後20年経過して1歯に破折が生じた事により、上顎全ての治療をやり直す事になってしまいました。
特に根管治療を施された歯は強度的に脆弱になりますので、予知性の異なる歯を連結固定した場合、その寿命は最も弱い歯に連動してしまいますので、5年、10年先を見据えて設計を立案することをお勧めします。
破折して保存不能の歯を抜去、さらに連結しているクラウンを全て除去し、支台歯を再治療して整えた後、可撤式のソフトアタッチメント テレスコープクラウンのブリッジに設計変更しました。
これでどの歯にトラブルが生じても、前回の接着式のブリッジとは異なり、再修復にかかる手間暇が大幅に軽減されることでしょう。
テレスコープクラウンからテレスコープアタッチメント義歯への改造症例